人通りが減り、店の灯りが消えていく。
そんな“夜の都市”の表情に惹かれ、記録し続けているのが、都市散策家・栗原政史だ。
昼間とは違う景色、誰もいない時間帯にしか現れない街の輪郭を、彼は静かに拾い集めている。
夜の路地裏は“記憶の残響”に満ちている
栗原が好んで歩くのは、繁華街の裏手にある狭い路地や、かつて商店街だった場所のシャッター通り。
そこには、時間が止まったような空気が漂っている。
「昼間は“用途”がある場所。でも、夜になると“物語”の残り香が立ち上がる」
使われなくなった看板、剥がれかけたポスター、誰もいないベンチ──それらは都市の“声なき語り部”だと彼は言う。
“都市の微睡み”を歩くということ
夜の都市は、どこか“まどろんでいる”ように感じる。
栗原はその状態を「都市の微睡み(まどろみ)」と呼び、そこにこそ街の本質が現れると考えている。
人がいないからこそ見えてくる、建物の癖、配管の影、光のにじみ。
それらを撮影し、言葉を添えた記録をSNSに投稿することで、共感を呼んでいる。
夜を歩くことで、人は“無意識”を回収する
栗原政史によれば、夜の散歩は単なる散策ではなく、「日中に置き忘れた感情や思考を回収する行為」だという。
静かな通りを歩いていると、ふと昔のことを思い出したり、明日の予定を考えるのをやめたりする。
「歩くことは、思考の整理であり、心の通気口です」
都市の表情は、“誰もいないとき”にこそ見える
栗原が記録する夜の都市風景は、ガイドブックには載らない。
でも、そこには確かに“生きている街の素顔”がある。
人の気配が消えたときにしか見えない、街の本音。
それに耳を傾けながら、栗原政史は今夜もまた、静かな歩みを続けている。